臨床工学技士
臨床工学技士は、医療機器の専門家として、医療安全の確保と質の高い医療提供に不可欠な存在です。高度化・多様化する医療機器を安全かつ効果的に運用するために、専門的な知識と技術が求められます。
臨床工学技士とは
臨床工学技士は、医師や看護師といった医療チームの一員として、生命維持管理装置の操作・保守点検、医療機器の保守点検・管理、高気圧酸素治療、人工透析、心臓カテーテル検査における循環器系の操作、手術室でのME機器操作、医療ガス設備の管理、放射線治療機器の管理など、幅広い業務を担当します。具体的には、以下のような業務が挙げられます。
生命維持管理装置の操作・保守点検
人工呼吸器、心肺補助装置(PCPS)、人工心肺装置、体外式膜型人工肺(ECMO)など、患者さんの生命を直接支える装置の操作、設定、監視、そして緊急時の対応を行います。これらの装置は高度な専門知識と迅速な判断を必要とし、臨床工学技士の正確な操作が患者さんの命を左右します。また、装置の日常的な保守点検や定期的なメンテナンスを行い、常に最適な状態で使用できるように管理します。
医療機器の保守点検・管理
MRI、CT、X線診断装置、超音波診断装置といった画像診断装置、内視鏡、レーザー治療装置、電気メス、高周波焼灼装置などの多種多様な医療機器について、物理的・電気的な安全性、精度、機能が維持されているかを確認するための保守点検を行います。不具合や故障の早期発見、修理手配、メーカーとの連携なども重要な業務です。医療機器の管理台帳を作成し、使用状況や保守履歴を記録・管理することも求められます。
人工透析
慢性腎不全の患者さんにとって不可欠な血液透析や腹膜透析の装置操作、監視、そして透析液の調整や回路の準備・管理を行います。患者さんの体調変化を注意深く観察し、異常の早期発見と対応に努めます。透析装置の洗浄・滅菌・保守点検も重要な業務です。
心臓カテーテル検査における循環器系の操作
心臓カテーテル検査や治療において、心電図モニター、血圧計、心臓カテーテル装置などの操作・管理を行います。リアルタイムで患者さんの心臓の状態をモニタリングし、必要に応じて装置の設定変更やトラブルシューティングを行います。
手術室でのME機器操作
手術中に使用される生命維持装置(人工心肺装置、ECMOなど)、電気メス、高周波焼灼装置、吸引器、麻酔器などの医療機器の操作、設定、管理を担当します。手術の進行状況に合わせて、的確かつ迅速な対応が求められます。
医療ガス設備の管理
病院内で使用される酸素、亜酸化窒素、医療空気などの医療ガス供給設備の配管、ボンベ、流量計などの保守点検・管理を行います。安全な医療ガスの供給を確保することは、医療現場の安全にとって極めて重要です。
高気圧酸素治療
潜水病や一酸化炭素中毒、難治性潰瘍などの治療に用いられる高気圧酸素治療装置の操作・管理を行います。装置内の気圧や酸素濃度を適切に調整し、患者さんの安全を確保しながら治療を進めます。
臨床工学技士の資格と取得方法
臨床工学技士になるためには、国家資格である「臨床工学技士免許」を取得する必要があります。資格取得のルートは主に以下の2つです。
大学・専門学校での養成課程
大学や専門学校の臨床工学科などで、3年以上(大学の場合は4年)の専門教育を受け、卒業することで受験資格を得られます。カリキュラムでは、医学、工学、生理学、病態生理学、生体工学、医療機器学など、幅広い分野を学びます。
養成校卒業後の国家試験
大学や専門学校で所定の課程を修了した後、年1回実施される国家試験に合格することで、臨床工学技士免許が交付されます。試験は、午前・午後それぞれ120問、計240問のマークシート方式で行われ、合格基準は総得点の60%以上とされています。
臨床工学技士の仕事のやりがい・大変な点
臨床工学技士の仕事は、患者さんの命に直接関わる重要な役割を担っており、その分、大きなやりがいを感じることができます。
やりがい
- 患者さんの命を救うことに貢献できる:高度な医療機器の操作や保守点検を通じて、患者さんの回復に貢献できることは、何物にも代えがたいやりがいとなります。
- 最先端医療に携われる:日々進歩する医療技術や機器に触れることができ、常に新しい知識やスキルを習得できる環境は、専門職としての成長を実感させてくれます。
- 医療チームの一員としての貢献:医師や看護師と連携し、チーム医療の一員として患者さんを支えることに貢献できます。
- 多様な分野での活躍:臨床現場だけでなく、医療機器メーカーでの開発・営業・保守、研究機関、教育機関など、活躍の場は多岐にわたります。
大変な点
- 責任の重さ:医療機器の操作ミスや不具合は、患者さんの生命に直結するため、常に高い集中力と責任感が求められます。
- 24時間体制での対応:夜間や休日に緊急の呼び出しに対応する必要がある場合もあり、体力的な負担や時間的な制約が生じることがあります。
- 高度な専門知識・技術の習得:常に最新の医療機器や技術に対応するため、継続的な学習と自己研鑽が不可欠です。
- コミュニケーション能力:医師、看護師、患者さん、メーカー担当者など、様々な立場の人々と円滑なコミュニケーションを図る必要があります。
臨床工学技士の口コミ・感想
実際に臨床工学技士として働く人々の声は、仕事のリアルな姿を理解する上で非常に参考になります。
ポジティブな口コミ・感想
- 「自分が関わった患者さんが元気になる姿を見るのが何よりの喜びです。機器が正常に作動し、それが治療に繋がった時の達成感は大きいです。」
- 「最新の医療機器に触れることができ、常に新しい知識を学べるのが楽しいです。工学的な視点から医療に貢献できることにやりがいを感じています。」
- 「チーム医療の一員として、医師や看護師さんと協力して患者さんをサポートできることにやりがいを感じます。専門職としての専門性を発揮できる場です。」
- 「部署によっては、比較的落ち着いた環境で、じっくりと機器の管理や点検に集中できることもあります。自分のペースで仕事を進めたい人には向いているかもしれません。」
- 「学会や研修会が活発なので、最新の情報を得たり、他の病院の技士さんと交流したりする機会が多いです。刺激になり、モチベーション維持に繋がります。」
ネガティブな口コミ・感想
- 「緊急時の対応は、予期せぬ時に呼び出されることもあり、体力的にきついと感じることがあります。オンコール体制は覚悟が必要です。」
- 「業務範囲が広く、覚えることが多岐にわたるので、常に勉強し続けないといけません。新しい機器が導入されるたびに、その操作方法や保守点検方法を習得する必要があります。」
- 「病院によっては、臨床工学技士の専門性が十分に理解されていない場合もあり、自身の業務内容や役割を説明する必要がある場面もあります。」
- 「給与面で、他の医療職と比較して、もう少し評価されても良いのではないかと感じることもあります。」
- 「日々の業務に追われてしまい、じっくりと研究したり、新しい技術開発に時間をかけたりすることが難しい場合もあります。」
まとめ
臨床工学技士は、高度化・複雑化する現代医療において、医療機器を安全かつ効果的に運用するために不可欠な存在です。患者さんの命を預かるという重責を担いますが、それ以上に、医療の最前線で専門性を発揮し、人々の健康と命を守るという大きなやりがいを実感できる職業です。専門知識の習得や継続的な学習は必須ですが、多様な医療現場で活躍できる魅力的な職種と言えるでしょう。

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